ルート√324 Topへ戻る

蜜柑
『蜜柑』
 蜜柑──それは物語という名の迷宮
紡がれなかった物語と空席のヒロインが、貴方によって再び息を吹き返す
異なる役割 異なる関係──現実と虚構と過去と、混ざり合う蜜柑色の幻想
お客様──蜜柑とは甘く……そして酸っぱいものでございます。見た目は堅そうでも、強く握れば潰れてしまう程に脆いもの。まま、難しく考えず。炬燵にでも入りながらのんびりと一口、二口と……ご賞味ください。
(パッケージ裏より引用)


総合:A シナリオ:A キャラ:B CG:C エロ:C 音楽:S システム:C

 これ、パッケの裏に看護婦が描いてあるので病院モノとばかり思っていた。あんまり病院モノな気分にならなくて長いこと積んだままになっていたが、ふと崩してみたら、なんだよ病院モノじゃないじゃん(一部は病院だったけど)。もっと早く崩せばよかった。大変もったいないことをしました。

総括
 このゲーム、一言で言えば、作家である主人公が書きかけの小説の続きを模索するというもの。だがその契機に蜜柑屋なる古本屋を配したり、店主が意味ありげな包帯男だったり、執筆作業を蜜柑遊戯と呼称したりとなかなか雰囲気たっぷりなのだな。この雰囲気は……昔懐かしい、我が青春のシーズウェア特有のあのサスペンス調の雰囲気ですよ。(遠い目)
 書きかけの小説「虚ろなる器」は3通りの草稿が主人公によって執筆されていくのだが(「病床にて…」「怨毒の槐」「いつわりのおとこ」)、メインヒロイン「希」にしろ他三人のヒロインにしろ、その3つの話の中では異なる人格・異なる役どころを与えられ、役者のようにそれぞれを演じていくことになる。通常のADVみたいにルートごとにヒロインの気持ちや人格が変化するとかそんなレベルではなく、ヒロインそのもののパーソナリティが3通りあるというわけで、この感情移入もへったくれもない機構が自分は禿しく気に入ってしまった。というのも、自分は普段からあまり主人公に感情移入しない人で、第三者視点でストーリーを堪能することが多いのだが、感情移入を読み手に促すどころか神の視点で物語を眺めることを強要する本作では、その第三者視点での堪能がより深く味わえたのだな。主人公への感情移入が必須なユーザーにしてみれば地雷になりそうだけどね。
 3つの話は同時進行でのプレイが義務付けられている。1つの話をがーっと最後まで読み通したいとも思ったが、3つの話同士の絡み合いや、キャラの演じる役どころの落差なんかを味わうにはこの形式がベターだったのかもしれない。それぞれの話の内容もダークな基調は貫きつつも、異なる面白さがあって引き込まれた。自分が特に気に入ったのは「怨毒の槐」。ありがちな話だけど、キャラの心理描写がきめ細かくてどっぷり浸かることができた。一番ホラー色が強くて陰惨なストーリーだった、ってのもあるかも。
 話が進むにつれ、想定外のヒロイン「繭実」に物語をかき乱され、制御できないことに対して主人公の中で違和感が膨らんでいく。この違和感がきっかけになって物語の焦点は主人公の過去の体験に移っていくのだが、ここら辺はちょっと無理やり感があったと思う。死んだ彼女をそんなに綺麗さっぱり忘れるか普通? これ、ライター自身の、キャラが思い通りに動かないという体験のメタ表現程度に収めておけばよかったのに。…ということで、オチは残念ながら特に感銘を受けなかったなあ。そのせいかプレイ後は「あれ、もう終わり?」みたいなあっさり感ばかりが残ってしまったかも。実際ボリュームはあまりないんだけれど、このボリュームでももっと重い読後感をもたらすのは可能だったんじゃないだろうか。そこが残念。いや、でも十分面白かったんだけどな!

 本作の場合、前述の通りキャラは与えられた役どころを演じることになっているので、キャラ立ちの良し悪しはなんとも言えない。全体的には、メインヒロインタイプの希、お姉さんキャラの杏、ロリキャラの瑠璃、かき回し役の繭実、といったラインナップで、標準テンプレは満たしてるかと。蜜柑屋の店主は雰囲気作りには貢献してたと思うけど、キャラに思い入れることはできなかった。現実世界での杏先生と瑠璃に至っては…アレ本当に必要か??? 個人的な好みでは「いつわりのおとこ」での瑠璃タンの謎めいたロリババァっぷりが良かったな。「怨毒の槐」の繭実は別格でイイけどね。生首サイコーw

 絵は…何と言いますか…低予算っぷりつうか同人臭さつうか、そういったものがぷんぷん漂ってくる絵で、可愛い絵柄ではあるんだけどお世辞にも上手な絵とは言いがたい。致命的なのは華やかさに欠けるところだな。これが、この作品が埋もれてしまった大きな要因なんじゃないかと。塗りや背景は一定水準ではあるんだけどねえ。

 読ませゲーにしてはまあまあエロいかな。「いつわりのおとこ」のロリババァ瑠璃は素晴らしい。論外なのは「病床にて…」。綾波モード繭実タンのエロがないとはどういうことだ。総合的に見ると、やっぱエロ目的で買うような作品じゃないわなー。

 この作品の大きな魅力になってるのは音楽。何なんだこの良BGMの数々は。いらないと思える曲は1曲もない。ピアノが主旋律を鳴らしてる曲が多いが、それがダークな雰囲気とマッチしてる。曲調はどれも抑え目で地味に美しい。それがまたダークな雰囲気と…いや本当、物語を盛り上げてますよ。シーズよ、サントラ欲しいよー!出してくれー!(無理)

 本作はエロ薄、ボリューム薄、絵が地味等、いくらでも欠点を挙げることはできるが、それでもなかなか得難い良作ゲーの部類に属すると思う。とにかく雰囲気がいいし、実験的な前衛さも好みだ。昨今の流行の萌えゲーとは真逆の作品だけど、こういうのが沢山作られることを願わずにはいられんな。

《Written 2009.5.10》
文責:◆PinkCH/F76 mail:memphis@s5.xrea.com